本特集について
こんにちは、HAL編集部です。
この度私たちHALは、株式会社JTBコミュニケーションデザイン様と株式会社加工技術研究会様が主催する展示会「WELL-BEING TECHNOLOGY -マテリアルと情報技術で拓く豊かな社会-」のメディアパートナーとして、ウェルビーイング特集を発信しております。今回は本特集を締め括る会期中の取材レポートをお届けいたします。
展示会「WELL-BEING TECHNOLOGY」概要
近年、ウェルビーイング社会への関心の高まりとともに、身近な暮らしの中でひとに寄り添う新しい製品・サービスが注目を集めています。さわり心地のよい素材や快適な空間デザインとその評価技術、工場やオフィス・ 公共空間で活用が期待される協働ロボット、人間拡張技術、またXR技術で実現する新しい働き方など、ひとの健康や心地よさ、幸福度につながる視点での製品・サービス開発に取組む企業が増えています。当展示会ではこの分野に光をあて、「ウェルビーイング」と「産業」を結びつける場として、2024年1月31日(水)から2月2日(金)の三日間、東京ビッグサイトにて新規展示会「WELL-BEING TECHNOLOGY(略称:ウェルテック)」を開催しました。
【次回開催概要】
WELL-BEING TECHNOLOGY 2025
会期:2025年1月29日(水)~31日(金) 10:00-17:00
会場:東京ビッグサイト 東ホール
セミナーは大盛況、各ブースのデモにも注目が集まる
今回が第一回目の開催となる「WELL-BEING TECHNOLOGY 2024」。様々な展示会と同時開催される中、研究機関や民間企業など多様な出展が見られました。各ステージで行われるセミナーは、事前登録から満席になるものもあり、当日は立ち見もいるほどの盛況ぶりでした。
出展者ブースでは、様々なテクノロジーを活用した「ウェルビーイング」に繋がる商材やサービスが立ち並びました。大学や研究機関によるセンサやXRなどを利用したサービスから、ちょっと変わった案内ロボットまで、それぞれの企業が描くウェルビーイングな未来を垣間見ることができました。
そんな熱気溢れる展示会で取材した体験レポートをお届けします。
※本取材は事務局許可の元、各企業様にご協力をいただいております。私たちHALの主観的な体験レポートであり、掲載している技術やサービスなどを保証するものではございません。出展物に関しては各企業・機関へ直接お問い合わせください。なお、本記事の掲載内容を閲覧目的以外での無断転載や二次配布、盗用などは固くお断りいたします。
WELL-BEING TECHNOLOGYセミナー
マツダ
マツダからは車両開発本部の主幹エンジニアである久保賢太氏が登壇されました。テーマは「ウェルビーイングにむけた自動車”感性”機能」。
自動車は日本のインフラを支える重要な要素であり、安全安心のために年々多様な機能が追加されています。一方で車は人間が全身で使用する機械であり、セーフティ機能に加え快適さや心地よさといった人がより使いやすく、ポジティブに使えるようになるための研究開発が進んでいます。マツダはこの点において、より人にとってウェルビーイングな社会形成を目指すために、「感性」を用いた開発を行っています。
ウェルビーイングな交通社会において、マツダではカーライフに「楽しさ」を追求しており、その「楽しさ」とはラグジュアリーさではなく「元気」に繋がるものと捉えています。加えて感性は印象や感情を作り出す能力であると定義し、感性の作られ方について研究を進め、プロダクト開発を行っているのだそう。自動車本来の開発プロセスは第一に安全と安心、その次に「楽しさ」を追求することです。マツダは「ポジティブな気分が人の注意を拡張する」というポジティブエモーション理論を用い、楽しくて魅力的なプロダクト開発のために「楽しさ」の部分の比重を上げたことが特徴になっています。
セミナーを通して、マツダは「感性」という見えない要素を開発に取り込む上で、さりげない優しさや温かさといった「さりげなさ」の良さをプロダクトを通して演出しようとしたことが印象的でした。人は運転時に安全に対して大半の意識を向けているので、できるだけ負担の少ない機能提供が求められるでしょう。それを意図的に意識して使う時にできるだけ自然に機能提供することができ、その中でさりげない優しさをプロダクトを通じて提供することに、社会と人と技術それぞれの親和性を高める重要さを感じました。
産業技術総合研究所 人間拡張研究センター
こちらのセミナーでは産総研人間拡張研究センターのセンター長である持丸正明氏が登壇されました。テーマは「A-Pモデルでウェルビーイングに貢献する人間拡張研究」です。そもそもなぜ持丸氏が人間拡張の研究を始めたのか、そしてそのテクノロジーはどこに向かっていくのかが語られました。
そもそも人類は遺伝子変化が少ない生物であり、100年単位の年月では人類の遺伝子は変わりません。しかし現在では、人間の成長速度より技術が遥かに上回っており、人間が置いて行かれている状況になっています。
そこで心身制御を拡張することで、人類の変化の遅さをカバーできないであろうかと考えたのが「人間拡張」だそう。ご存じの通り、「人間拡張」とは東京大学大学院情報学環の暦本純一教授が提唱された言葉ですが、セミナーでは持丸氏が思い描く人間拡張の世界が語られました。
制約された中で経済完結していた時代から、国際化によって生活圏が拡大し交流が増加しました。多様性の中で起こるコミュニケーション問題、文化的な認識や体験の相互理解など、順応するには時間がかかりすぎる。しかし人間の感覚的なところに起因する課題は、遺伝子的な成長の速度では対処ができないのでテクノロジーで人間を拡張させて解決する必要があると言います。時空間を超えて多様性を理解するコミュニケーションができる世界、いわゆる「環世界」の拡張が持丸氏の考える人間拡張の世界です。
生物の根幹からテクノロジーの必要性、関わり方を捉える大変興味深いお話を伺うことができました。私たちは単にテクノロジーのアップデートを追い求めるだけではなく、人間の行動や考え方自体のアップデートも行っていかなければなりません。それらを持続可能な活動にするためには、人と技術を繋ぐ社会的活動としてビジネスが必要になるのだと考えます。
企業ブース
株式会社ソリッドレイ研究所
建築物や船などの大型建造物を体感でシミュレーションできるプロジェクション型VRシステム
産業用VR歴37年という経歴とそのVRシステムがどのようなものなのか、興味津々で半分暗幕に囲われた株式会社ソリッドレイ研究所のブースでVR体験をしてきました。
背面のセンサに繋がれたゴーグルを装着すると、2台のプロジェクターで正面と床面それぞれに映された画面がVR空間になり、周囲や自分の体は見えるのにそこだけ没入感がある不思議な空間を見ることができます。動きや位置を感知するセンサの働きによって、しゃがんだり背伸びしたりして視点を変えても映像の高さや景色が現実と同じように変化するため、まるで目の前にあるかのような感覚になりました。
デモでは家と造船シミュレーションを体験できました。お話を伺ったところ、家内にあるバーチャルキッチンは、まずVPL社がHMDを使って1990年に開発し、1994年頃から3Dプロジェクターを使用して湾曲したスクリーンに投影して活用し始めたものだそうです。船のVRは造船前に実寸でシミュレーションすることで、エンジン室の面積や通路の幅などを体感した上で決めることができます。VRといえばエンタメやリハビリなどで目にしやすい印象ですが、作り直しが困難なものやまだ世の中に物質的にないものを作る際にもVRを活用することはとても有効なのだなと改めて活用法を考える体験となりました。
レンダリングソフト開発から出発し、エビデンスを元にマーケットバランスを踏まえながら企画をし、制作から保守まで丸ごと請け負ってきたそうです。設計支援や教育支援などの他にも、スポーツのような人に合わせて動くものや医療系など興味深い展開も伺うことができ、今後とも注目したいと思います。
株式会社CyberneX・ベレアラボ
脳波を用いたリラックス度計測システム「α Relax Analyzer」
以前HALでも記事で取り上げた株式会社CyberneXが、ロート製薬株式会社のベレアラボと共同出展されていたので、脳波を測定するデバイスを見に伺いました。脳波を使って一番リラックスできる香りを見つけられる体験ブースなので周囲には爽やかないい香りが漂い、他と異なる雰囲気も相まって体験する人が列になるほどの人気ぶりでした。
脳波を測定する「XHOLOS(エクゾロス)Free」は耳の後ろに装着し、髪で隠れるくらいの小型設計された脳波計です。脳波を計測するというと静止した状態で計測する心電図のようなイメージをしますが、XHOLOSは動いている時の脳波も計測できるので、実際に装着してみるとイヤフォンのように装着感がなくシームレスな感覚でした。
画面に従ってアロマグラスドームの香りを20秒ずつ嗅ぎます。測定した数値を見て、どの香りが一番リラックスしたかや香りの提案などを見ることができます。体験したところ、自分でフィットすると感じた香りと脳波から一番リラックスしたと感じた香りは異なっていたので、好みの他に内外的な刺激・周辺環境によって変化することが分かりました。結果をQRで持ち帰ることができるので、今後自分でアロマを選ぶ際の参考にもできます。
世の中にある膨大な数の香りの中から自分に合った香りを選ぶことは難しいので、客観的なヒントとして脳波を計測することは興味深いアプローチだと思います。リラックスできる香りをミックスさせて新しい香りを作るなど、人間の感覚起点の製品選び・製品作りに大きな可能性を感じる体験でした。
株式会社シンコキュウ
”呼吸法を習慣化する” 深呼吸誘発デバイス「シンコキュウ」
スタートアップエリアでは、株式会社シンコキュウのブースで深呼吸誘発デバイス「シンコキュウ」を拝見してきました。呼吸法を行うことで様々な体のパフォーマンスが上がるとのこと。ブースでは、同社創業者兼エグゼグティブ・アドバイザーである三好氏にお話をお伺いしました。
今日まで様々なヘルスケアアプリやデバイスがありますが、どれも途中から億劫になる要素があったり、つい忘れてしまったりするなど、習慣化する前にやめてしまった経験は誰しもあるのではないでしょうか。三好氏もアプリでは習慣化しにくいと語っていました。
この「シンコキュウ」は、そのような能動的アクションを取らずに日常の中で気づいた時に呼吸することを促す新しいデバイスです。つい見た動きを真似てしまう「運動共感」を利用し、最初にアプリで設定したらあとは、目に入った時にデバイスの呼吸するような動きに合わせて呼吸するだけ。
デバイスは柔らかさがある形で、目につくけれどインテリアとして馴染むデザインを考えられたのかなと感じます。特に息を吐く時には、吐く息の温かさにリンクさせて暖色系の暖かなライトカラーに光る工夫も共感ポイントだと思いました。ゆっくりと上下する動きに合わせて呼吸することも違和感なく、一緒に呼吸しているような感覚になります。BGM的に音楽が聴けると更にストレス軽減にいいなと考えていたところ、なんとこちらスピーカー機能も付いているそうです。
開発は3年ほどで、その内1年は形状デザインにこだわったのだそう。ユーザーインタビューも行って如何に物理的な刺激で適度に意識させ、空間をデザインすることで日常に溶け込ませるかを考えて開発されたのかが伺えます。
現段階では勉強などの教育シーンや介護、保険業界などのユースケースを想定されているとのこと。「シンコキュウ」は今年β版をリリース予定です。
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国立研究開発法人 科学技術振興機構 未来社会創造事業/岐阜大学
人の戦略的Win-Win思考を強化するトレーナーAIを使って認知スキルを習得
最後に取材したのは岐阜大学の寺田和憲教授の研究です。
私たちは誰かとコミュニケーションを取る際に自分の言動や思考の元となる嗜好や文化、環境などについて事前に語らうことは稀なことだと考えています。それゆえ「自分がこう考えているから相手も同じように考えているだろう」という無意識の思い込みによってミスコミュニケーションが起きたり、行き違いが生じたりすることが大なり小なり誰しも経験しているのではないでしょうか。何か解消するテクノロジーはないだろうかと、常に頭にあった中で出会ったのが寺田教授の研究です。
ご紹介いただいたトレーナーAIは、認知科学や人工知能などの知見を応用した最新科学技術が融合されたAIエージェントシステムです。AIとのインタラクティブシナリオによって実践的な経験をトレーニングすることができ、ユーザーが実際に使えるWin-Win認知スキルを習得することができます。AIの感情評価モデルに基づいてシチュエーションや好みなどに対してAIの感情を決定し、Chat GPTの生成によって表情表出や視線モーション、発話を行います。
実際にAIの嗜好性に合わせてAIキャラとおでんを分け合うデモ体験(上部右図)をやってみたところ、今回はAIが嗜好を発言するようになっていたので、音声2:表情1くらいの割合で判断できました。これを表情のみで判断する状態だと、少し難しいと感じる方もいるかもしれません。練習として試す機会がなく成功体験が中々得られにくいことをトレーニングできるのは、表情の読み取りが苦手な人はもちろん、相手の思考や嗜好の理解が不足している場合など、様々なシーンで活用できるのではないかと感じました。ゲーミング性もあるので、道徳の授業に取り入れられるよう教育現場への導入を進めていらっしゃるそうです。
AIに学習させるためのデータ収集によっては、教育やコミュニケーションの他にも、組織であれば役職や職種による思考齟齬の理解を得られるようなテクノロジーとして活用ができるのではないかと期待が高まります。
最後に
他にもご紹介できなかった魅力的な出展物もあり、見応えのある展示会となりました。ここ近年で徐々に聞かれるようになった「ウェルビーイング」。今そのキーワードを未来のビジョンに置き、マテリアルや商品・サービスなどが世の中に出てきています。ウェルビーイングな社会を実現するために様々なアプローチがありますが、実際の現場で私たちが注目する人間拡張技術も色々な形で活用されているのを目の当たりにし、大きなアプローチのひとつであると改めて認識しました。
ひとりひとりがウェルビーイングな生活を享受し、心も身体も豊かな社会生活を送るために様々な企業や研究機関が手を取り合えるようなビジネスが躍進していくことを期待したいと思います。
第一回WELL-BEING TECHNOLOGY 2024は無事閉会し、昨年7月から始まった本特集もこの記事で最後となります。引き続き第二回の開催に向けて、更に多くの企業・団体から素晴らしいものが発表されることを今から楽しみにしています。また、特集記事へご協力いただきました各企業・団体の皆様におかれましては、改めて御礼申し上げます。
(提供:JTBコミュニケーションデザイン)