本特集について
こんにちは、HAL編集部です。
この度私たちHALは、株式会社JTBコミュニケーションデザイン様と株式会社加工技術研究会様が主催する展示会「WELL-BEING TECHNOLOGY -マテリアルと情報技術で拓く豊かな社会-」のメディアパートナーとして、ウェルビーイング特集記事に取り組んでいます。
今回も開催直前特集として前編・後編にわたってHALが選ぶ注目出展企業様の紹介記事をお届けいたします。来場前の事前チェックと合わせて、企業間の更なるビジネスの加速にお役立てできればと思い、出展者様にご協力いただきながら本企画に取り組んでおります。
後編では株式会社資生堂様をご紹介いたします。近年では男性も行う人が多い肌ケアは、ウェルビーイングにおいてもQoLを高く上げてくれるひとつではないでしょうか。そんな日常に密接した肌ケアで資生堂様が提案する、資生堂独自の触感センサで定量化した”肌に触れる”という感覚を取り入れた先端テクノロジーの肌ケアについてお話をお伺いしました。
その他にも毎月ゲストをお迎えしたトークセッション動画の見どころを紹介しております。7月から配信されている動画も今月で最後ですので、そちらも合わせて是非チェックしてください。
展示会「WELL-BEING TECHNOLOGY」概要
近年、ウェルビーイング社会への関心の高まりとともに、身近な暮らしの中でひとに寄り添う新しい製品・サービスが注目を集めています。さわり心地のよい素材や快適な空間デザインとその評価技術、工場やオフィス・ 公共空間で活用が期待される協働ロボット、人間拡張技術、またXR技術で実現する新しい働き方など、ひとの健康や心地よさ、幸福度につながる視点での製品・サービス開発に取組む企業が増えています。当展示会ではこの分野に光をあて、「ウェルビーイング」と「産業」を結びつける場と して、2024 年に新規展示会「WELL-BEING TECHNOLOGY(略称:ウェルテック)」として初開催します。
【開催日時】
2024年1月31日(水)~ 2月2日(金)10:00-17:00
【会場】
東京ビッグサイト 東ホール
株式会社資生堂 出展概要
日々の肌ケアでWell-beingを実現!
肌ケアの中でも”肌に触れる”に着目して、新しいWell-beingの価値を提案します。
・スキンケアが及ぼす心理的効果(参照1、参照2)
・触感を測るセンサ
・肌の触感を再現した肌モデル
・マッサージ法をARで重畳して伝えるアプリ
・自宅でのセルフケアでも施術者からエステされたように感じるアプリ
(出展概要はこちら)
小間番号 : 5B-20
株式会社資生堂
株式会社資生堂 みらい開発研究所
出展製品・サービス(製品サービスカテゴリー)
- センシング&計測:心と身体のセンシング(生体、感覚・感情)、感性価値や触覚等の定量化
- ワーク&コミュニケーション:人間拡張
- 学術研究:感性工学、心理学
HALの注目テクノロジー
今回HALが注目したのは、資生堂独自の触感センサ。インタビューでは、2種類の触感評価デバイス「振動摩擦センサ」と「接触力センサ」の開発話を伺いました。肌に「触れる」という動作について、国内外で行動観察を行い、その違いからこれらの触感センサが生まれました。着手から2年、様々な検証や計測を経た独自のセンサによって、私たちの肌ケアにどのような革命を起こすのか期待が高まります。
”肌に触れる”を独自の触感センサで定量化する触覚知覚研究
要素技術とアピールポイント
生活者は肌を見たり肌に触れたりすることで日々の肌状態の変化や化粧品の効果を感じます。資生堂は肌に触れている時の手の動作を日本、アメリカ、イタリア、中国、タイの五か国へ実際に行って生活者の行動を観察したり、化粧品の効果や感触に関する表現を聞いてイメージする動作を調べたりしました。その結果、生活者の肌状態や肌効果感を確認する動作が「滑らせる」と「押す」の2つに分かれることがわかりました。また、過去の研究から肌の中にある触覚受容器が検知することができる物性が、対象物の表面を滑らせる時は「振動と摩擦」、押すときは「接触力」であることがわかりました。そこで、確認動作と検知できる物性の知見に基づいて,肌に触れることを定量化することを目的とした2つの触感センサ「振動摩擦センサ」と「接触力センサ」を開発しました。このセンサは対象物の物性を高精度で計測できますが,この計測値と触感評価の専門技能をもつ官能評価者の評価値との間には相関があり、人が感じる触感を推定することもできます。
(資生堂様コメント全文)
振動摩擦センサ(左)、
接触力センサ(右)
「振動摩擦センサ」は実際に肌の上を滑る接触子が指の指紋を模した、凹凸のあるものを使用されているのだとか。2019年から2年間で接触子のプロトタイプを10個ほど制作し、肌という非常に柔らかいものを対象に行うため接触子も1つではなく2つにするなど、様々な努力が垣間見えるセンサデバイスです。
もう一方の「接触力センサ」は、接触子が肌を押し静止してから戻る過程で生じる対象物からの反力を測定するセンサです。身の回りにある工業製品よりも非常に柔らかい肌を測るため、一般的に使用されている硬度計では測り分けることができないわずかな差を捉えることを目指したそうです。頬を測定することに特化して測定可能な硬度範囲を設計されていて、肌でも頬よりも硬い部位を測ると壊れてしまうことがあるくらい、繊細な測定を行っているとのことです。
“肌”に真剣に向き合う企業努力がなし得るテクノロジー開発に、是非注目していただきたいと思います。
研究・開発に込めた思いや動機
「見る」ことで得られる情報(視覚情報)は色の名前やしわの程度など、表す言葉にある程度の共通認識があります。そのため、生活者からの言葉を聞くと研究員がその視覚的な状態を容易に理解できます。一方、「触る」(触覚情報)は、それぞれの人が感じているものを見ることができないため、共通認識を持つことが難しいです。具体的には、同じ化粧品でもしっとりするとおっしゃる方もいれば、べたつくとおっしゃる方もいます。そこで、生活者が主観的に言葉で表現する肌触感を客観的に評価する必要性を感じました。お客さまが表現する触感の状態を、触感センサで振動、摩擦、接触力の回復率などを測定し物性で捉えることで、お客さまが理想とする肌触感をより効率的に・高精度に実現する化粧品開発を目指しました。
(資生堂様コメント全文)
想定しているビジョン
HALでは会期中に企業間マッチングを促進し、より早いテクノロジーの社会実装を加速させたい思いがあるため、想定しているユースケースや応用プロダクトのヒントなどをお伺いしております。
本研究について想定しているビジョンをお伺いしました。
これまで処方開発者の経験と知識に頼っていた処方開発において、「生活者の言葉―触感を生み出す物性―素肌/化粧肌」との関係を知り、化粧品開発の設計指針として活用を目指します。また、加齢に伴って生じるハリ悩みなどに対しては、ハリ感の変化を客観的に知り、ハリ悩みを感じる時に生活者に最適なケアをお伝えすることができると考えています。
(資生堂様コメント全文)
まとめ
資生堂は「肌に触れる」ことに着目し、人が肌の状態や化粧品の効果を感じる際の手の動作や行動について国内外での行動観察を行い、「滑らせる」と「押す」という2つの動作で人が肌状態や肌効果を確認していることを発見しました。しかし生活者と開発者の間で、視覚的ではない「触覚」における共通認識を持つことが難しく、客観的評価をする必要性があるとして、独自の「振動摩擦センサ」と「接触力センサ」を開発。高精度で物性を計測して定量化することで、人が感じる触感を推定することが可能になりました。
振動、摩擦、接触力の物性を比較することで生活者の発言から具体的な肌の変化を理解し、化粧品開発の目標を具体的に定めることを目指しています。
創業から150年以上の歴史を持ち、多くの人から愛され信頼されている資生堂が提案する新しい切り口の”肌ケア”。自分の状態を正しく把握し、自己理解の技術としての活用と普及によって、誰もが自分の肌に合った正しいケアを行うことができるようになる期待が高まる技術です。毎日の肌ケアによって、肌も心も満たされるウェルビーイングなQoLをイメージいただけるよう、本ブースまで是非足を運んでみてはいかがでしょうか。
なお、本記事に掲載している文章および参考資料を第三者へ再配布することや無断転載・改変などは固くお断りいたします。研究内容に関しましては、直接各社ご担当者までお問い合わせください。