スタートアップ企業インタビュー【LIFEHUB社】目指すモビリティは溶け込む”ファッション”

スタートアップ企業インタビュー【LIFEHUB社】目指すモビリティは溶け込む”ファッション”

はじめに

こんにちは、HAL編集部です。
今回は人間拡張関連の事業を展開するスタートアップ企業のインタビューを発信します。スタートアップ企業インタビューの第一回は次世代椅子型モビリティを開発するLIFEHUB株式会社。従来の車椅子のイメージを感じさせない魅力溢れるプロダクトや目指すビジョンについて、代表取締役CEOの中野裕士氏にお話を伺いました。

本記事に掲載する内容は、インタビューした当時の内容を元にしております。インタビュー対象者の個人情報や掲載内容に対し、当社の許可無く、転載や盗用、第三者機関への利用・譲渡などは一切禁止しています。掲載内容に対しての質問・お問合せなどは、当社編集部までご連絡くださいますようお願い申し上げます。なお、製品に関するお問合わせは、企業様公示の窓口まで直接お問合せください。

LIFEHUB株式会社とは

会社情報

LIFEHUB株式会社は、機械と人間の融合による進化を目指すスタートアップで2021年1月に創業。全ての人が自由にやりたいことが出来る世界を実現するために、身体的制約を取り払うことに着目し、身体拡張デバイスやモビリティ製品、医療福祉機器の研究開発および関連サービスを提供するほか、機械の設計や開発に関する事業などを展開しています。

LIFEHUB株式会社
代表取締役CEO
中野 裕士 氏
東北大学大学院修了 博士(工学)。日立にて制御デザインエンジニアとして自動運転をはじめとするさまざまな自動車制御システムを新規開発 。次世代モビリティベンチャーにて製品開発プロジェクトの立ち上げから製品化まで一貫して経験。世界最大手CAEベンダーにて、自動車会社の開発コンサルタントとして数々の自動車システムの開発プロジェクトを支援した経験を持つ。(公式サイトより)
2020年に開催された東京都主催のビジネスコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY」へ参加したことをきっかけに野宮和洋氏(現取締役CTO)と共にLIFEHUB株式会社を設立。

製品情報

【次世代の椅子型モビリティ】

会社のビジョンと代表・中野氏の想い

”テクノロジーによって全ての人を制約から解放する”というLIFEHUB社の思想の背景についてお聞かせください

障がいがある方に限らず、不自由では無いけれど歩きたくない人、例えば、少し歩くだけで疲れやすい、足が痛む、といった目に見えない制約を恐らく全ての人がお持ちだと思います。「そのような制約を全ての人から解放するためには何をしたら良いのだろうか?」と考えた末、”新しい身体のパーツを作る”という発想に繋がりました。
「脚をもう少し長くしたい」と思うなら、自分の脚を長脚のパーツに付け替えるようなイメージです。私自身の知見や経験から、ロボティクスといったテクノロジーでそれが実現出来るのではないかと考えたのが最初のキッカケですね。

どのような視点で発想されたのでしょうか?

私はロボティクスが専門でキャリアを積んできました。しかしロボティクスは、未だ人々が”自由だ”と感じることに直接的に作用しているテクノロジーではありません。作用しているテクノロジーの例を強いて言えば、飛行機とかですかね。

対して人間の身体は、全ての人が所有しており、誰もが大なり小なり何かしらの制約を抱えています。自分で歩くことは出来るけれど車だって乗る、それくらいの軽い気持ちから身体的な制約の解放にアプローチしていきたいです。

パワーアシストスーツは良いアプローチではありますが、手軽さなど、課題が残ります。もっと手軽で日常使いが出来るようなものを考えた時に「身体のパーツを入れ替えるのが良いんじゃないか!」と発想しました。生身の腕がロボットアームに置き換わるようなイメージです。でも最初からこの構想を実現するには難易度が高いので、まずは足の拡張、つまり足の代替として椅子型モビリティの開発に至りました。

弊社でも「人間拡張の製品がファッション感覚で日常的に取り入れられるようになると良いな」といった話を社内でよくしますが、同じような感覚でしょうか?

まさしくそうですね。例えば「今日はパーティだから自分の足を長脚のパーツに置き換えよう!」とか、そのような世界観です。

当たり前を覆す次世代椅子型モビリティ

身体拡張がもたらす自由とテクノロジーの進化

最初、車椅子に着目された理由は?

理由はいくつかあります。まず私の専門がモビリティであり、長らく研究開発をしていたので、ロボティクスと組み合わせて何か出来ないかと考えました。次に電動車椅子は既に市場が形成されており、ビジネスになる顧客がいること。そして足に着目した際に、足の進化に携わる企業が未だあまりいないという点です。モビリティ領域で培った我々の技術を活かせば、将来、生身の足を入れ替えるような「足」を作る技術に繋がるのではないか、という点でも車椅子に着目しました。

将来的には目や臓器といった他のパーツも入れ替えが可能になるのでしょうか?

そうですね、目は是非、挑戦してみたいです。五感のうち約8割は視覚から情報を得るため、イノベーションを起こす意味でも眼球は重要だと思います。眼球を入れ替えるだけで、視覚上、好きな映像を映し出せるような、眼球がそのままカメラになるイメージを持っています。それが実現すればスマートフォンを持ち歩く必要も無くなりますしね。メタバース世界で存在するアバターと現実世界でも接することが出来るとか、そのようなことと紐付けられれば面白いのではないかと考えています。

ロボティクスとは異なりますが、BMI(Brain Machine Interface)領域への関心もおありですか?

BMIは、将来必ず必要になるものだと思います。先ほどの眼球もそうですが、脳のI/O、つまり情報の入出力関係が確立していないと上記のような構想はできません。映像を見て、脳へ信号を伝える流れがまさしくそれで、身体を動かす信号においても同じです。BMIは今後必須の技術になるでしょうね。

ファンクションからファッションへ

ユーザー視点で見た際に、椅子型モビリティの課題はありましたか?

我々の製品はプロトタイプ段階なので、実際にユーザーに使ってもらった意見はまだありません。しかし、段差を乗り越えるという点は、やはり車椅子が持つ課題です。階段や道路のちょっとした凹凸など、健常者ならすぐ乗り越えられるような20cm程度の段差でも、車椅子では通れません。バリアフリーが整備されていない場所でも、この課題を我々で解決したいという気持ちがありました。

直立した人と同じ目線に高さを調整出来る機能や、デザイン性は、このプロダクトの大きな特徴だと思いますが、この点に着目したのはどのような背景があったのでしょうか?

車椅子に乗り、自分だけ周囲の人達よりも低い目線で生活すると「自分は障害者なんだ」と自覚させられます。しかし、多くの車いすユーザーは、それは仕方が無いと感じています。その課題を解決したいと思いました。

デザイン性に関しては、車椅子は福祉機器なので、従来の車椅子の特徴の違いは機能性(ファンクション)くらいしか無いんです。WHILL(ウィル)社製の電動車椅子は、デザインの先駆けと思われるデザイン性があります。出来るならそのような”格好良いもの”に乗りたいじゃないですか。車のように格好良かったり、可愛かったり、車椅子もそのようなものがあって良いと思うんです。
そうすると従来の車椅子ユーザー以外に「車椅子に乗ってみたい!」という人が増える。例えば実際に空港内の移動で利用されている『WHILL』は、自動運転で目的地に連れて行ってくれるのでとても便利です。移動時間を有意義に使えますし、空港内を歩き回って疲れることもなくなります。

でもそれが従来の車椅子のデザインだったら、乗ること自体に抵抗が生まれますよね。障害がある方だと周囲から見られるかもしれませんし、健常者が本来、利用の対象では無い福祉機器を占有しているように見える。そのような理由から我々はプロダクトのデザインにもこだわっています。我々のモビリティは、従来の車椅子色からの脱却を目指しつつ、まずはユーザーに受け入れられやすいように白をベースにし、未来的なイメージを想起させる青を掛け合わせました。この足のラインが光ると見た目的にも未来感がより増します。

2023年から販売を開始するとのことですが、市場展開やモニターテストの見込みなどについてお聞かせください

2023年末に販売を予定している限定モデルの販売先は日本国内のみですが、創業初期からグローバル市場を見据えています。2025年以降はグローバル展開を進める計画です。
モニターテストについては、医療機関を通じて実施する予定ですね。
安全性で言うと、電動車椅子には規格が決まっており、ロボティクスの場合、サービスロボットや移動ロボットといった種類でISOなどの規格があります。その規格に準拠した、安全性を担保する設計にしています。

モビリティを開発する中で、コスト削減など工夫されたところはありますか?

私は長らく研究開発に携わっていたので、スタートアップ企業や自動車会社のコンサルティングなど、様々なプロダクト開発の経験を通じて、正解と思われる開発プロセスは分かってきていました。その経験や知見が開発ロードマップを引くことに活きており、かなり効率的に進められていると思います。開発上、様々な工夫を凝らしていますが、例えば部品で言えば、金属部品の金型を作ってもらう方が量産の時にコストを安く抑えられるといった計算はしています。後は納期が早い部品を使ったり、社内では3Dプリンターもフル活用して、部品の調達と試験のサイクルを早く回しています。

世に出すスピードを早めるために解消すべきボトルネックはありますか?

やはり自社で必要な技術を持っているかだと思います。自分達が保有する経験・スキルで出来るのか、それとも勉強しないと出来ないのかではスピード感に雲泥の差があります。そのため、技術を持つ人を採用できるかもとても重要です。社内の工数を削減したり、どうしても自社で出来ないものは外部に依頼することもありますし、直近ではプロダクトデザインを担ってくれる人を探しています。

人間拡張のテクノロジーが溶け込む未来図

将来、他社と協業して取り組みたい事業はありますか?

この椅子型モビリティをインフラのようにしたいので、その実例を作りたい。不動産デベロッパーによる都市開発に弊社のモビリティを活用して頂けたらと考えています。あとはモビリティのデザインもですが、街全体もあわせてデザイン出来るとか。それが出来ると、我々のようなプロダクトの新しい活用方法が生まれて面白いと思いますね。

ヒトが「自由」と感じる世界

私たちHALは『人間拡張技術を活用して、誰もが理想とする未来を実現させる』というビジョンに向かって活動しています。編集部でも人間拡張に纏わるテクノロジーを社会で浸透させるために「人間拡張のプロダクトが、よりスタイリシュであれば・・」「身体パーツを自分好みに付け替え、身につけることができたら・・」と意見を交わしていたところ、LIFEHUB社の椅子型モビリティと中野氏のビジョンを知り、編集部一同は大いに歓喜して今回のインタビューをお願いしました。


お話を伺う中で社会貢献性の高さや将来性を感じたことはもちろんですが「当たり前」「仕方が無い」と、我々が無意識に受け入れている不自由さに目を向けることがキーポイントだと再認識しました。人の不便さを解消するプロダクトは、ファンクション(=機能)に寄りすぎている側面が多々あります。単純に見た目の装飾を格好良くすることも一案ではありますが、誰もが心理的な障壁を感じず利用でき、むしろ多くの人々が「積極的に使いたい!」と思えるプロダクトへ昇華させることが、今後ますます重要になってくると思います。誰もが身体的な制約から解放され、自由だと感じられる世界。そんな未来の実現に向けて先端を走るLIFEHUB社から今後も目が離せません。

最後に、私たちHALは人間拡張技術に関連する事業やプロダクトを開発するスタートアップ企業様のインタビュアーを募集しています。自社紹介や協業募集など、人間拡張技術の唯一のメディアであるHALで発信してみませんか?ご興味がある方はお問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

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