学生インタビューvol. 1「触覚グローブの研究開発」| 北陸先端科学技術大学院大学

学生インタビューvol. 1「触覚グローブの研究開発」| 北陸先端科学技術大学院大学

はじめに

こんにちは、HAL編集部です。
今回は人間拡張技術の研究に取り組む学生を対象としたインタビューを発信します。今後も、人間拡張領域の研究開発を行う方々へのインタビューを掲載予定です。

本記事に掲載する内容は、インタビューした当時の内容を元に構成しております。インタビュー対象者の個人情報や研究内容などに対し、当社の許可なく転載や盗用、第三者機関への利用・譲渡などは一切禁止しています。掲載内容に対しての質問・お問合せなどは、当社編集部までご連絡くださいますようお願い申し上げます。

学生紹介

インタビューを受けてくださった学生をご紹介します。
北陸先端科学技術大学院大学
知識科学系 創造社会デザイン研究領域 所属
楠木 幹也さん(M1 修士1年)

今回は、操作学習のための可動磁力付き触覚グローブ『マググローブ(MagGlove)』の研究についてお話を伺いました。彼の研究テーマは、私たちが掲げるミッションにおいても非常に重要な要素であると考えています。人間拡張技術は未知の可能性を秘めた面白い領域だということに改めて気付かされるインタビューとなりました。

人間拡張技術の研究について

きっかけは「人間×機械」の面白さ

「様々なテクノロジーに関する研究がある中で、人間拡張技術の研究をしようと思ったのはなぜですか?」

僕は元々デバイスを作ることが好きで、大学入学後に、人間の身体へ直接アプローチする”身体拡張”に目を向けました。実は大学院に入る前から、北陸先端科学技術大学院の謝先生に直接コンタクトをとり、この触覚グローブの研究を進めていました。なので、人間拡張の研究期間は結構長いです。

北陸先端科学技術大学院大学 オーグメンテッドインタフェースグループ[HP

謝浩然先生を中心に率いる研究グループで、人間中心AI、インタラクティブコンピュータグラフィクス(CG),ヒューマンAIインタラクション(HI)や人間拡張の分野融合研究に取り組んでいる

「人間拡張の研究室がある大学は日本でもまだ少ないですが、最初から北陸先端科学技術大学院を目指していたのですか?」

元々、謝先生の研究内容に興味があったので、大学院名で選んだというよりは先生の研究で選びました。また、僕個人では関わっていませんが、今、所属する研究室で行っている『折り紙構造』という、いわゆるデバイスを折り畳み、コンパクトかつ軽量化する研究もとても面白いです。

人間拡張技術の魅力

どのようなところに人間拡張技術の魅力を感じますか?」

先程も言った通り、僕はデバイスを作ることが好きです。まだ世の中に無い、新しいデバイスを作ることで、人ができなかったことが出来るようになることが楽しい。そこが、人間拡張技術の一番の魅力だと思います。

可動磁力付き触覚グローブ『マググローブ(MagGlove)』の研究

楠木さんが今回制作したデバイス『マググローブ(MagGlove)』は、リニアモータを用いた可動磁石型ハプティクス(触覚)グローブです。ハプティクスグローブとは、装着することによって、よりリアリティのある触覚フィードバックが得られる機能を持った身体的拡張技術のデバイスです。近年では、様々な実用化に向けて幅広く研究されています。

「研究の題材として触覚グローブを選んだ理由をお聞かせいただけますか?」

大学院生なので最終的に論文を提出しなければいけません。そのため前提として論文が書ける題材になります。基本的には謝先生と自分が興味のあることを相談しながら題材を決めますね。他の学生は、人の役に立てそうか?という視点から研究テーマを考える人が多いと思います。今回、グローブにした理由も、先生から「手はどうか?」という提案をいただき、面白そうだなと。手は柔らかいので、僕の研究テーマの一つにある『柔らかさ』にも適していて良いと思いました。

「楠木さんの研究テーマは、どのようなものなのでしょうか?」

一つは『安価に作れること』があって、それは多くの人に使ってもらうことを目標にしています。謝先生も課題として指摘されていますが、人間拡張デバイスが高価だと富裕層にしか行き渡らず、貧富の差が広がる懸念も生じます。
二つ目は『手軽に作れること』です。手軽なデバイスであれば、IoTキットのように、一から自分でデバイスを作ることも可能になるのかなと考えています。
後は先ほど挙げた『柔らかいこと』(ソフトロボティクス)。人間拡張デバイスは人に取り付けるものなので、柔らかい方が安全で良いからです。

「マググローブは(手を用いる)スキルの取得を利用シーンとして想定されているのでしょうか?また、リハビリテーション用との違いはどのような点でしょうか?」

スキルの取得についてはその通りです。ピアノ演奏など、楽器を使ったスキル習得はイメージが湧きやすいかもしれません。
違いは、リハビリテーションの場面では手に大きな力を加える必要がありますが、楽器演奏などのスキル習得の場面では、大きな力は必要ありません。
触覚グローブは、指によって力加減を変えることもできますが、細かな制御ができるものはコストが上がり、それだと目指している「安価で手軽に」というテーマから外れてしまうので、開発が難しいです。

「マググローブを制作するにあたって、どこに一番費用がかかりましたか?」

マイコンに一番費用がかかりましたね。後は、今回は大学の設備を使いましたが3Dプリンターだと思います。コイルや磁石などの部品は、ホームセンターで購入できるものを使用しています。

「今回の研究は、謝先生を含め、3人体制で行われたようですが、研究フェーズはどのようなものでしたか?また、楽しかったポイントや先生に評価された点があればお伺いしたいです。」

このデバイスのメカニズムは、大まかな機構から応用して、細かく動きを考えました。基本的には、自分でメカニズムを考えついたら、大学の3Dプリンターでプロトタイプを作り、謝先生にフィードバックを貰うことを繰り返しています。その工程が一番楽しかったですね。自分で考えたメカニズムを、謝先生に使えるねと評価していただいたことが嬉しかったです。

今回の反省点や次回の研究について

「マググローブの研究を振り返ってみて、反省点はありますか?」

デバイスの仕組みを作った後にユーザー検証をしたのですが、デバイスを作る前にユーザーへのヒアリングをしていませんでした。デバイスを作った際に、自分の想像以上にデバイスが重く大きかったので、事前にユーザーの声を聞くことが大事だと思いました。反省を活かして、次はユーザーが使いやすいものを作りたいです。

「次の研究について、差し支えない範囲で教えていただけますか?」

謝先生の研究に『余剰肢ロボット』というものがあって、僕は折り紙構造を用いた人間拡張デバイスの研究に取り掛かっています。腕を一本増やす”第三の腕”ですね。引き続き、作るデバイスは安価で手軽なものを考えています。

「デバイスを作る上で素材や設計など、考慮している点もお伺いしたいです。」

この”第三の腕”は、従来のものだと重くて嵩張るものがほとんどです。なので、狭いスペースかつ長時間使用できるような、軽量でコンパクトなデバイスを作りたい。素材も肝だと思いますが、最初の設計作りが一番重要です。シンプルなメカニズムだと、デバイスも安価で手軽に作りやすくなります。今まで高価だったものを安価なもので再現できないか、というのが一番のポイントですね。

「最後に、楠木さんのデバイスについて”10年後にはこのような使われ方をして欲しい”など、未来への展望があればお聞かせください。」

研究テーマである”安価”で”キットのように自分で欲しい拡張技術を作れるような手軽さ”があることで、多くの人に人間拡張デバイスが行き渡る未来になると良いなと思います。日常生活の中で普及するデバイス作りを目指したいです。

見えてきた人間拡張の課題

今回のインタビューを通して、キーワードとして頻出した「安価さ、手軽さ」という二点は、私たちにとってもコロンブスの卵でした。BMIやパワードスーツなど、最先端テクノロジーの話題を目にする機会が多いと、どうしても技術の進歩ばかりに目がいきがちです。私たちが目指す人間拡張技術が身近にある社会を実現するためには、量産化の課題にぶつかります。まだ確立されていないテクノロジーより、腕や足に着目したロボットテクノロジーは量産化に向けて動ける段階ではないかと考えています。その際に肝となる「安価さ」と「手軽さ・簡素さ」は非常に大事な要素と言えます。改めて、人間拡張技術を社会に浸透させるために必要なことに気付かされました。
国内ではまだまだ未発達な研究領域ですが、学生の皆さんには未来を創造する自由な発想を生み出していただきたいです。

最後に、私たちHALは、この”学生インタビューシリーズ”で研究内容についてお話してくださる学生さんを募集しています。「自分の研究を発表したい」「人間拡張技術についてこんな想いがある」など、人間拡張技術の唯一のメディアであるHALで発信してみませんか?個人でもグループでも、または教員・教授、研究室全体でも構いません。ご興味がある方はお気軽にお問い合わせフォームよりご連絡ください。

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