あったらいいなシリーズ-vol. 3 感情検知レンズ

あったらいいなシリーズ-vol. 3 感情検知レンズ

はじめに

この「あったらいいなシリーズ」は、HAL独自の目線で具体的な身体的制約について取り上げ、その制約に対してこんなものが世の中にあったらいいのになと想像・提案する不定期更新のシリーズです。どなたかの何かのヒントになるよう、既に世に出ているソリューションのご紹介も交えて執筆していきます。

注意:本記事は、色覚異常を持つ当事者の社内メンバーの意見や知識をもとに、編集部にて一部調査した内容を記載しております。すべての内容について医学的根拠等を検証していない点のみご理解ください。また、HALが提案するソリューションについてはアイディアベースであり、具体的な医学的根拠や推奨などはございません。また、イラストの無断使用・転載やデザインの流用など著作権法の違反になる行為はおやめください。その他についてのお問合わせはこちらからご連絡をお願いいたします。

発達障害によるコミュニケーションの障害

発達障害とは、脳機能の発達に関係する障害です。
そして発達障害のある方は、コミュニケーションを取ったり対人関係を築いたりすることが苦手な傾向にあります。彼らの行動や態度は「自分勝手」「変わった人」「困った人」と誤解され、敬遠されることも少なくありません。その原因が、親のしつけや教育の問題ではなく、脳機能の障害によるものという点はあまり知られておらず、周囲からの理解を得ることが難しい状況も多く見受けられます。

発達障害と言っても、その種類は大まかにいくつかに分類されています。主に自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(AD/HD)などが挙げられます。発達障害は、複数の障害が重なって現われることもあり、障害の程度や年齢(発達段階)、生活環境などによっても症状は異なり、実に多様です。

【参考】
発達障害ってなんだろう?(政府広報オンライン)

症状は様々ですが、今回はコミュニケーションの障害にスポットを当てたいと思います。
対人コミュニケーションで起きがちなトラブルは、例えば以下のようなものがあります。

  • 聞き手の気持ちにお構いなしに話し続けたり、質問し続けたりする
  • 相手の言葉を言葉通りに解釈しすぎる
  • 単語の意味などの理解が不十分で、文脈や本人の知識レベルに則ったコミュニケーションができない
  • メッセージの送り方が、大声を発したり机を叩くなど、相手が解読しづらい方法をとる
  • 大勢の会議での同時発言や早口などは、音が飛んで聞こえてしまう
  • 口頭での指示は考えるべき状況が飲み込めず、抽象的な内容だと理解できない
  • 報連相がいつ、どのタイミングで、どのくらいの頻度で行えばいいのかわからない

このように、普段当たり前に行っている指示や言動が、発達障害がある方にとっては大きなコミュニケーションの壁になることがあります。

こちらに、更に具体的な職場でのシーンが掲載されています。
テクノロジーを活用した 発達障害のある人の就労マニュアル
(テクノロジー(支援技術)を活用した発達障害者の就労促進・就労継続に向けた支援等に関する研究会独立行政法人雇用・能力開発機構 職業能力開発総合大学校 能力開発研究センター)

いずれかの中に「そういえばこういう人がいたかもしれない」と思い当たる事例がありましたか?

発達障害人材へのサポート不足は経済損失

株式会社野村総合研究所では、発達障害のある人材に関してこのような発表がされています。

”発達障害人材へのサポート不足による日本の経済損失推計額は約2.3兆円
潜在者を含めるとさらに2.5倍の経済損失が存在する可能性も”
デジタル社会における発達障害人材のさらなる活躍機会とその経済的インパクト(野村総合研究所)

注意散漫や独特なコミュニケーションなど、発達障害の中には社会活動を行う上で阻害要因になりがちな障害もあります。その一方で、こだわりの強さやパターン化の行動、凄まじい集中力など、彼らの特徴を上手く活かせる環境に身を置けば、これらは大きな強みになります。海外ではスペシャリストとして活躍する人材もおり、企業側は単に雇用するだけでなく、彼らが能力を発揮し活躍できるようなプログラムを立ち上げたり、労働環境の整備にも余念がないことが窺えます。

それに対して、日本は大きく遅れをとっている状況です。環境整備を行う以前に、まず発達障害とは何かという理解が浅いことが根底の原因だと考えます。言われたことができない、指示通りに仕事がこなせない人を見て、「仕事ができない、やる気がない人」と、その人を早計に判断する前に、本当にこの人は仕事ができないのか、それとも他に原因があるのかを、一度、考えてみることも必要ではないでしょうか。先ほどの野村総合研究所の資料では、今後目指すべき姿として『「能力の凹凸のある人」「障害者」への配慮や能力開発は、一般の課長、部長にとって当然有すべきマネジメントスキル』と記載されています。あらゆる人が活躍できる社会基盤を作る一歩は、まず自社の人材を見つめ直すことからかもしれません。

今までの解決方法

まず、先ほどご紹介した就労マニュアルに掲載されているような、コミュニケーションを電子メールに切り替えたり、指示用の資料を作成するなど、音声でのやり取りに加え、文字で後から確認できるようにするという、アナログな解決方法があります。しかしこれらは、当事者に「自分は発達障害を持っている」という事実の認識と、周囲の正しい知識や対処法の体得、そして解決に向けた話し合いができる信頼関係など、様々な前提条件をクリアした後の対策です。一人の上司だけが抱えるのではなく、会社全体、ましてや少子化や産業改革による人材の確保に努める義務がある社会全体が解決すべき課題です。

発達障害人材の雇用サポート

国内外では発達障害がある方の雇用を積極的にサポートする企業が存在します。
マイクロソフト社のビル・ゲイツ氏が舌を巻き、本社へスカウトしたという引きこもりゲーマーだった方は日本のデジタルハーツ社の社員です。様々なITツールの品質テストなどを行うデジタルハーツ社は、引きこもり経験者を積極的に採用し、IT領域のスペシャリストであるゲームデバッガーやエシカル・ハッカーとして活躍の機会を創出しています。

デンマークのスペシャリステルネ社は、大手企業による発達障害人材の雇用をサポートする企業です。同社は、自閉症スペクトラム人材をソフトウェアが正常に動くかを確認するテスターとして採用するほか、採用のために独自開発した自閉症スペクトラム雇用プログラムを多くの企業に提供しています。
高度IT人材は日本でも採用を促進しているパーソナルチャレンジ社の「Neuro Drive」という就労移行支援サービスがあります。同社は、スペシャリステルネ社のように発達障害人材の雇用をサポートしています。このように、最初からあらかじめ能力や特性がお互いにわかっている状態であれば、働き方を決めたり受け皿を作ることもスムーズではないでしょうか。

公私で自分をサポートできるソリューション

このように、障害が、特化したスキルへと昇華し、社会で活躍できるフィールドも広がっています。しかし、誰しも同じようにIT系が得意な訳ではありません。何に特化しているのかを見つけられない人もいるでしょう。理解ある周囲の環境は必要なことですが、自分自身で対策を用意することもまた必要だと思います。まだ的確なサポートを受けられない職場やプライベートな場で、円滑なコミュニケーションをサポートするアプリも200種類以上提供されています。

アプリノより

HALが考える「あったらいいな」

自身でも解決策を持つことは、精神的安心にも繋がると考えます。対人コミュニケーションの中で、特にトラブルになりやすい症状として、相手の感情がわからないことだと身近でよく耳にします。コミュニケーションの障害があると、目の前の相手が怒っているのか悲しんでいるのかわからず、適切な対応ができないことがあります。ですが怒っている相手に対して、「このアプリを使いたいから顔をこっちに向けて喋ってくれる?」と急にお願いしたら、相手との関係が更に悪化してしまう可能性もあります。

私たちHALが今回考えたソリューションは、身に着けるだけで相手の感情が見える「感情検知レンズ」です。Affectiva社のアプリ「心sensor」など、アプリで感情分析するものは存在していますが、カメラ越しではなく、今目の前で話している相手に使用することはかなり困難です。話を聞くだけでも苦労する人もいるので、出来るだけ簡易に、そして自然に近しい形で実現させることが当事者に寄り添ったデザインだと考えます。
ただ、レンズからの情報と相手との会話を同時に理解するのは難しい人もいるでしょう。ですので喜怒哀楽値など数値化するより、「今のあなたの言動で相手の感情が変化しました」というサインが分かれば考えることはできるのではないでしょうか。私たちは意識的でも無意識でもコミュニケーションを取る中で、自然に相手の反応を見ながら経験を積み重ねてコミュニケーション能力を伸ばしていきます。コミュニケーションの障害を持つ人はこの経験値を得ることがそもそも難しいのです。「これはOK」「これはNG」と自分が学んでいく中で解決策を考えることが、当人への本質的なサポートであると考えます。

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