はじめに
この「あったらいいなシリーズ」は、HAL独自の目線で具体的な身体的制約について取り上げ、その制約に対してこんなものが世の中にあったらいいのになと想像・提案する不定期更新のシリーズです。どなたかの何かのヒントになるよう、既に世に出ているソリューションのご紹介も交えて執筆していきます。
注意:本記事は、色覚異常を持つ当事者の社内メンバーの意見や知識をもとに、編集部にて一部調査した内容を記載しております。すべての内容について医学的根拠等を検証していない点のみご理解ください。また、HALが提案するソリューションについてはアイディアベースであり、具体的な医学的根拠や推奨などはございません。また、イラストの無断使用・転載やデザインの流用など著作権法の違反になる行為はおやめください。その他についてのお問合わせはこちらからご連絡をお願いいたします。
色覚異常とは?
“物を見る”という機能は、視力、視野、色覚の3つに支えられています。視力は細かい物を見分ける力、視野は同時に見渡せる範囲、色覚は色を識別する感覚のことです。
この3つの機能は、網膜にある光を感じとる「視細胞」の働きに委ねられていて、視細胞がうまく機能しないと、視力が低下したり、視野が狭くなるなどの異常が生じます。色覚についても、視細胞の機能次第で色を識別しにくくなる状態があり、それを色覚の異常と呼んでいます。さらに色覚異常は先天性と後天性に分かれます。
先天性の色覚異常は、日本人男性の5パーセント、女性の0.2パーセントの頻度で起きていて、国内で300万人以上が該当するので、男性なら20人に1人と稀なものではありません。その程度は人によって異なり、検査で指摘されない限り気付かない人もいれば、社会生活に支障を感じる人もいます。多くのケースでは、色覚の異常のため日常生活に困ることはないという見解があります。
【参考資料・引用元】
株式会社三和化学研究所「色覚の異常」
日常生活での問題
色覚異常のため、日常生活に困ることはないという見解ですが、本当にそうなのでしょうか?
実際に色覚異常を抱えている人からは、こんな問題の声が挙げられています。
- 信号や路線図、地図などを判別しにくい
- 色で判別が必要なカードゲームやテレビゲームなどができない
- 食材の成熟度や鮮度が判別しにくい
- 肉の火の通り具合が判別しにくい
- 衣類はもちろん、手芸店など布や糸などの色が判別しにくい
- タクシーの夜間点灯色や券売機のLEDの色が判別できない
- カレンダーの祝日は文字がないと判別できない
- 体のかぶれや腫れ、顔色や血便など自分で健康状態を把握しづらい
- 化学反応で起きる炎の色が判別しにくい
人によって見えづらい色や程度も様々なので個人差はありますが、パッと思いつくような信号やカレンダーといったもの以外に、お肉の焼き加減が分からないことや顔色や痣の程度など、人は色で判断していることが想像以上に多いことが分かります。
私たちHALにも色覚異常を持つメンバーがいます。彼は幼少期に体育の授業で使用するビブスの色が分からなかったことで、自分の色覚に異常があることを知ったそうです。上記にある炎の色を問われる理科や、色づかいが採点される美術の授業など、成績に直結する問題に直面した経験も。色覚異常で困る問題は、景色や服、注意・警告など「色自体によって認識するもの」と、食材やゲームなど「色が判断する要素になっているもの」の大きく2つに分けられるようです。
例えば前者の場合、手芸店では、布は同じ柄で色違い、糸は品番によって様々な色が隣同士に陳列されています。そうすると単品で置かれていたら何となく判別できる色も、似たような色が近くにあると判別しづらくなります。色の範囲が小さいものや背景の色によっても見づらさは変わります。
後者の場合、特に人とのコミュニケーションの中でよく起こります。例えば電話口で「右下の赤文字で書いてあるところ」など、色で判断が必要なものは別のコミュニケーションが必要になります。最近ではWEBやビデオコールなどが利用されているので、仕事でミスコミュニケーションが起きることも減っているとは思いますが、多人数の会議やセミナーなどはまだ苦労があるのではないでしょうか。
また、職業についても色が判別しにくいために就けない業種もあります。信号判断が必要な公共機関や飛行機などの操縦士、程度によっては医師や調理師など命に直結する職業は断念せざるを得ないでしょう。教育者も教える教科次第では難しいでしょう。色彩感覚が必要なデザイナーや画家・イラストレーターも不向きと言えますが、その独自の感覚を表現したコンセプトであれば完全に不向きな職業ではないと考えています。
ここまで様々な不便さをご紹介しましたが、先述した通り、人によって見えない色が異なったり程度も違うため、一概に全てが不便と直結しているわけではありません。また、信号のように配列が決まっているものや他の色と比べた時の見え方を覚えるなど、自分で判断できるよう解決策を持っていることもあります。彼らにとって「他者が色覚異常を理解できないこと」が一番の不便です。昨今ではユニバーサルデザインも徐々に増えてきてはいますが、まだまだデザイナーや企業が考えるレベルで、自分の身の回りで考えることと乖離があります。自分の周りには違う見え方をしている人がいるかもしれないと視点を変えてみると、今まで聞こえなかった声にも気付けるかもしれません。
色覚異常を補完するソリューション
現在色覚を補完するソリューションとして、ウェアラブルタイプが主流として販売されているので一部ご紹介します。
エンクロマ社のエンクロマ色覚異常眼鏡
カリフォルニア州バークレー市に本社をおくエンクロマは、最先端の色覚異常眼鏡、ロービジョン、またその他の色覚障害修正品を世界中でオンライン及び正規販売店で販売している会社です。エンクロマの革新的な特許取得済みの色覚異常用眼鏡は、博士号を持つ硝子科学者及び数学者である個人により2010年に創立され、最新の色知覚神経科学とレンズの革新を組み合わせた眼鏡は、世界中の色覚障害を持つ人々の生活改善を目指して作り上げられました。米国国立衛生研究所(N IH)からSBIR助成金を受け取り、テクノロジーを使って人々の経験に革新的なインパクトを与えたことが米国中小企業庁から認められ、2016年にチベット賞を受賞しています。(公式サイト引用)
エンクロマ色覚異常眼鏡は、色と明快さを目的に作られたレンズ技術を応用し、色覚異常を持つ人々にとって想像できなかった体験を可能にしました。また、世界中の眼科専門家からの承認を受け、最も典型的なタイプの赤緑色覚異常専用に作られています。
同じように、色覚補完するタイプの眼鏡はネオ・ダルトン社からも出ています。赤と緑の区別を分かりやすくするエンクロマに対して、ネオ・ダルトンは赤緑青3色のバランスをとるレンズになっています。どちらの眼鏡が相性が良いのか、実際に試してみる必要がありそうです。
HALが考える「あったらいいな」
ご紹介した眼鏡のように、レンズの表面に加工を施して屈折を利用する光学的なものは既に世の中に存在します。レンズ側を調整する方が量産にも適しているからと考えられますが、できれば光学的なものを電子的に調整できるものが出てくればと期待しています。
例えば、HALではこんな「あったらいいな」を考えてみました。
光学レンズの上面に薄いレンズまたは液晶を重ね、電気信号を送ってディスプレイのように色覚補完ができるスクリーンをかけられる電子色覚補完メガネです。切り替えボタンで使いたい時にスクリーンを表示します。電力供給が一番悩ましいですが、先端の先端を行く視点で脳から電力を抽出するか、汗や摩擦で電力を生み出すジェネレーターを考えました。人体は指からも微弱電気を発していたり、脳は常に電気信号で活動していることから、人体が有する電力を利用するテクノロジーはやがて形になるのではないかと私たちは想像しています。現時点でのテクノロジーですと、リチウム電池は重さと使用時間がネックになるので、後頭部に電源を置き、VRゴーグルのような前と後ろで重さのバランスをとる形になるのかなと思います。ボタン電池のような小さな電源だと重量や傾きはクリアできそうですが、消費コストが良くないでしょう。また、デザインについても無骨なデザインより従来のメガネに近いデザインか、思い切ってコンセプトを持たせた2次元のような新たなデザインに振り切っても面白いかもしれませんね。